一本の木がつないだ命の記憶――北大路欣也さんからの温かいお電話と、八甲田山への祈り

こんにちは。東北山ナースガイドの熊谷久美子です。

暑い日が続きますね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。

先日、うれしい驚きと、胸が震えるような出来事がありましたので、ブログにて皆さまにおすそ分けしたいと思います。

ことの始まりは、6月に再放送された『にっぽん百名山 森吉山』でした。

2024年放送された番組

「ウダイカンバの北大路くん」が結んだ不思議なご縁

番組の中で、私が個人的にとても愛着を持っている森吉山の「ウダイカンバ」の巨木を、親しみを込めて「北大路くん」と名付けてご紹介しました。

「あんな名前をつける人、なかなかいないよ(笑)」と、クスッと笑ってしまった視聴者の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、この放送を偶然ご覧になったご本人――俳優の北大路欣也さんから、なんと直接お電話をいただいたのです。

北大路さんは、ご自身の名前がついたウダイカンバの姿をテレビで見て、本当に喜び、誇りに思ってくださったとお話ししてくださいました。

うだいかんばの北大路くん NHKのプロデューサーに感謝!

31歳、八甲田山のロケで見つめた「ブナの教え」

お電話の中で、北大路さんは31歳の頃に映画『八甲田山』のロケで極寒の地を這いずり回っていた当時の記憶を、昨日のことのように語ってくださいました。

零下数十度の極限の環境での撮影。帽子からは汗が凍り、つららとなって垂れ下がる。

あまりの苦しさと寒さに、思わず弱音を吐いてしまったときのこと。

「あのブナの木を見てみろ。

今は冬の厳しい寒さの中で、必死に耐えている。

でも春になったら、青々と輝く葉を出し、枝を伸ばし、華やかに輝くんだ」

プロデューサーに、そう言って励まされ、胸を衝かれたそうです。

当時の映画のポスターを画像お借りしました

頬が凍傷となり、それを隠し耐えながらロケに挑んだ50年前、、そのお話に惹きつけられました。

「自然も木も、このウダイカンバも、厳しい冬を耐え忍んで、春には青い葉を出す。昨日のテレビを観て、僕は本当に嬉しかった。あのような厳しい自然の中で、しっかりと根を張る木に私を例えてくれて、本当にありがとう。誇りに思います。これから生きていく中で、苦しいときには、またあの木を思い出して、憧れて、この命を大事に使っていきたい」

受話器の向こうから伝わる北大路さんの言葉は、

自然への畏敬の念と、生かされていることへの深い感謝に満ちていました。

クマゲラの森に住むブナじい

「北大路くん」という名に込めた、山岳看護師としての密かな祈り

実は、私がウダイカンバに「北大路くん」と名付けたのには、単なる親しみだけではない、私なりの「秘めた想い」がありました。

私は日々、山を愛する皆さんの安全を守る「山岳看護師」として活動しています。だからこそ、山で低体温症に陥り、命を落としていくことがどれほど苦しく、過酷なことなのか、その恐ろしさを専門的に学び、知っています。

かつて八甲田山で、寒さと闘いながら亡くなっていった英霊たちのこと。

あのような時代背景の中で、生きたくても死んでいかなければならなかった人たちの無念さ。

北大路欣也さんが演じた神田大尉のモデルは、青森歩兵第5連隊で雪中行軍隊の主任中隊長を務めた神成文吉(かんなり ぶんきち)陸軍大尉です。北秋田市出身でおそらく森吉山を眺めながら成長した若者でした。

「無念のままに亡くなった神成大尉をそっと供養したい」

そんな祈りを込めて、映画『八甲田山』で魂の演技を見せてくださった北大路欣也さんのお名前を、森吉山の厳しい冬を耐え抜いて立つウダイカンバに重ねて呼ばせていただいたのです。

「わかる人には、きっと伝わるはず」

そう願って名付けた想いが、まさかご本人に届き、このように心を通わせることができるなんて、これ以上の光栄はありません。

お電話の最後に、私が「このお話を、山の仲間たちにもお伝えしてよろしいですか?」とお尋ねしたところ、北大路さんは嬉しそうに、こう仰ってくださいました。

「仲間だけと言わず、本当にいろんな人に知って欲しいくらいだよ」

私たち二人の間で交わされた温かい時間が、こうして皆さまに届くことを、北大路さんご自身も心から望んでくださったのです。そのお言葉がまた、私の胸に深く、温かく染みわたりました。

自然と、人生と、共に生きること

北大路さんはお電話の中で、こうも仰っていました。

「人間は自然と共存しているということ。自然は厳しいということ。そして、人生もまた同じであるということ」

厳しい自然の中で、ただ黙って根を張り、春の輝きを信じて冬を耐え抜く木々の姿。

それは、私たちが困難な人生を歩むうえでの大きな道標でもあります。

北大路さんと私が、ウダイカンバを通じて気持ちを一つにできたこの奇跡のような時間。

これは、亡くなった方々への確かな供養であり、私にとっても今後のガイド人生・看護師人生の大きな「光」となりました。

「北大路くん」を捉えた動画は、あきた山の学校の仲間と無事に撮影を終え、これから北大路さんにお送りする予定です。

喜んでいただけると嬉しいな、と今からワクワクしています。

厳しい季節を乗り越えた奥森吉の樹々の「今を力強く生きる」その生命力から、きっとたくさんのパワーをもらえるはずです。

強い意志を感じます

2026 6月撮影 奥森吉